2015/05/29
ステファン・ドゥルノンクール氏の醸造哲学 日本ソムリエ協会 関東支部 分科会セミナー
日本ソムリエ協会 関東支部 分科会セミナー「ステファン・ドゥルノンクール氏の醸造哲学」に行ってきました。
協 力:国分株式会社
開催日:2015年5月21日(木)
会 場:目黒雅叙園 2F 華しずか
時 間:14:00~16:00
テーマ:「ステファン・ドゥルノンクール氏の醸造哲学」
試飲ワイン(5種類):
ドメーヌ・ド・ラ(2010、2011、2012)
シャトー・ジゴー キュヴェ・ヴィヴァ 2010
シャトー・パヴィー・マッカン 2012
講 師:ステファン・ドゥルノンクール氏
コメンテーター:中本 聡文氏
会場は120名程度入れそうな大きさでほぼ満員。
申し込みは200名あったそうです。 ※写真は開場直後です
■ステファン・ドゥルノンクール氏の経歴
フランス北部のビールで有名な村で産まれ、18歳でボルドーで収穫の手伝いから初める。
仕事をしているうちにブドウは魔法の木であることを知ったそうです。
1990年にシャトー・パヴィー・マッカンに入り、サン・テミリオン グラン・クリュ・クラッセの中で初めてヴィオディナミを始め品質が向上、評判が高まる。
シャトー・ジゴーなどでも腕をふるい、その後シャトーでの仕事を辞めてコンサルタント会社を設立。
醸造家とは違う、全体的なワイン造りの視点を持ち、とくにぶどう栽培を重視している。
コンサル会社をはじめて、自分の畑と醸造所が必要になった。
サン・テミリオンの特級畑が欲しかったが、銀行がお金を貸してくれなかったので、他のアペラシオンを探して、サン・テミリオンの東にあるカスティヨンにした。
土壌はサン・テミリオンと同じでも、カスティヨンなら安く買える。
まずは2.5haの畑から始めたが、現在は10haになっている。
社員はほとんどが醸造家で、畑のことは分からない人が多いので、トレーニングセンターにもなっている。
■ヴァン・ド・テロワール
ワインはブドウから出来、ブドウの木は土地から生え、土によってブドウが変わる。
その土地を表現しているワインを、ヴァン・ド・テロワールと呼ぶ。
ヴァン・ド・テロワールは収穫量を減らして、さらにブドウが完熟していないと出せない。
それが出来ないと、ただのセパージュワインになってしまう。
(たぶんどこでも作れるその品種のワインって意味)
■土壌について
栽培はメルローとカベルネ・フラン。
土壌によって同じぶどう品種でも味が違ってくる。
砂地のメルローはチェリーの香り、粘土質のメルローはラズベリー、石灰質のメルローは野生のくわの実、スミレ、スパイシーなフローラルがある。
石灰粘土質は複雑で、そこに惚れ込んでいる。
石灰質はレアな土壌、地球上の5%しかない。
にもかかわらず、フランスの55%は石灰土壌、だからフランスのワインは美味しい。(自慢)
6000年前のトルコでワイン造りが始まった、そこも石灰土壌でオリーブと同じ土地で栽培された。
石灰土壌をブドウが吸い上げるとワインのアロマが変わる、ワインを口に含んだ時のフォルムが変わる。
タンニンを優しくして触り心地を良くする、チョークのような口当たりになる。
石灰土壌は塩味を出せて、粘土質は甘みを出す。
ドメーヌ・ド・ラは粘土石灰質
粘土質は土が冷たく、ぶどうに実がつきすぎるとタンニンが熟さない。
A.O.C.が有名だと高く売れるので、収穫量を減らせるが、有名ではないA.O.C.では収穫量を上げないと元が取れないため品質をあげるのが難しい。
■インターナル・サーフェス
ビッグワインを作るための指標として「インターナル・サーフェス」という考え方がある
1グラムの粘土のミルフィーユ状になっている層を1枚づつ剥がして土地をおおう、計算上75平米に広がる。
という粘土の力を推し量る指針らしいのですが、よく分かりませんでした。。。
■ドメーヌ・ド・ラ
われわれはビッグワインを造る気概で始めた。
1haあたり55hlは取れる土地だが、20~25hlしか収穫しない。
有機栽培で人手もかかる、すべて手仕事で、収穫も手摘み。
最高のぶどうができれば醸造は簡単で大変ではない。
ぶどうを破砕せずに醗酵させる方法をとっている、破砕させないとつぶの中から醗酵が始まり、時間がかかりゆっくりと醗酵する。
ぶどうはすべて均一に熟しているわけではないので、未熟なものは醗酵せず破裂しない、タンクのなかでも選別が行われる。
1日2~3回醗酵の手伝い(ピジャージュ)をしてあげる。
ぶどうの果帽や果皮をしっかり観察してどのように変化するかを見て、料理をつくるようにワインを造っている。
抽出すぎるとドライで苦いワインになる。
また抽出しすぎはタンニンが壊されてしまい、樽との相性が悪くなる
抽出しすぎるとアタックワインになり、口に入れると幅広く広がるが余韻がなくなる
口に入れて物語を始める起承転結のあるワインを目指していて、ビッグワインは最後のフィナーレで分かる。
樽熟成しているが、ワイン専用の熟成庫を作った。
9世紀の建設手法で、基礎がなく、石灰質の土壌に樽が置いてある
船の底をひっくり返したような基礎をつくり、石灰系の土をもって石膏を流し込んでつくる。
大聖堂のようで、温度や湿度が完璧で、香りがよい。
汚染も電磁波の影響もない。
土から天につながっているワインが心地よく熟成する
■ぶどうの育成
ブドウは、春には狂ったように芽吹いて、あちこちにツルを巻きつけようとするが、それを剪定してくっつけて、おとなしくさせる。
7月末くらいには成長は止まり、秋前まではお母さんのように果実を育てようとする。
春に雨が降ると成長がとまり、8月中旬くらいまで成長して、そこから成長が止まって実をつけようとするので、タンニンが熟する期間が足りなくなる。
たくさん剪定して収量が適正になるように調整する。
■醗酵温度
高温になるほど抽出や醗酵が促進され、スピーディに進む。
限界温度は酵母が働ける温度、32℃を超えると厳しい。
28℃~30℃くらいで醗酵するとグリセロールが抽出され、ねっとり感が出る。
グリセロールを抽出するため、マセラシオンは高温の30℃くらいで行う。
■マロラクティック醗酵
マロラクティック醗酵はミステリアス。
バクテリアがリンゴ酸を食べて、乳酸に変わるので、醗酵ではなくトランスフォーメーション。
乳酸は安定した酸で、リンゴ酸は青りんごのような味で安定していない。
バクテリアがどのように反応してどの条件で行われるかは分かっているが、思うようにすることはできない。
アルコール発酵のすぐあとに始まることもあれば、2~3ヶ月かかることもある。
■ドメーヌ・ド・ラ 2012
<中本ソムリエのコメント>
若々しい、色が濃く鮮やかだが、ちょっとマットな印象で茶色っぽく二面性がある、粘性は豊か。
若いが芳香力が豊か。
ブルーベリーやカシスプラム、クミンのようなスパイス、3年目にしては豊かな香り。
味わいはどっしりしてるかと思いきや、酸がイキイキしていてボディをミディアムに引き締めている。
バランスが良い。
タンニンはキメ細かくアフターにシダやスパイス。
ドライな雰囲気もある。
今飲んで美味しい、ロオジエにグラスで置くことにした。
■ドメーヌ・ド・ラ 2011
夏が寒く、涼しかった年。
酸が効いているビンテージ。
2012は黒系果実野生のくわの実プラムのようだが、2011は酸味があり、緊張感がある。
口に含むと幅ではなく長く感じる。
タンニンが強く存在感がある。
最初は甘みあり、中間で石灰土壌独特の塩味があり、爽やかさがあるワインは飲み飽きない。
<中本ソムリエのコメント>
外観は、中心の黒みが2012年よりも明るい。
経験豊かな女性のようで、ロースト香やムスク、濡れた印象があり、焼き肉に良さそう。
土の香り、リコリス、デコリーズ 涼しい、緑や土、ふきのとう、芽吹く山菜。
酸とタンニンのストラクチャがしっかりしていて、凝縮感がある。
酸が重要で、凝縮感を軽快にしている。
■カスティヨンのぶどう栽培
カスティヨンは標高が高く、霜の害から守るために棚を高く造っている?という質問に対して、それは違って、経費を削るために収穫の工機を入れる必要があり、ブドウの背が低いと機械が入らないためである、という答え。
■ドメーヌ・ド・ラ 2010
太陽に恵まれた年。
ぶどうの成熟がありちょっと南のイメージがある。
果実、ジャム、スパイス、ショコラ。
良い斜面で熟した印象。
酸が重要だが、塩味が重要酸が前に出ているわけではない。
■ボルドーの2010年とは
毎年こうだったらいいな、という年で、安心して落ち着いていられた。
ぶどうが成長するのに合わせた最適な気候が続き、病気も出ない
熟成は完璧でビッグワインになる。
収穫量も多く手がかからない。
だれもが素晴らしいという。
ダメな年は、1年中犬のように働きづくめ。
2009年も良かったが、太陽の影響が強いエキゾチックな年。
評論家は2009年が好き。
2010年は貴重でレアな年、熟しながら爽やかさも出ている。
美味しい食べ物が欲しくなるし、飽きない。
ワインを飲む人が、2杯目に手を伸ばしているのを見ると醸造家はとても嬉しく感じる。
■シャトー・ジゴー キュヴェ・ヴィヴァ 2010
アルコール度が14.5%もあるが、熟していて優しい味わい。
粘性が強くゆっくりと降りてくる。
果実味が軽やかで動物的な香りもある、ドライハーブやセージ、ローリエ、サンディボーカー(?)。
広がりがあるボディで球体のイメージ。
強すぎず、熱くなく、心地良い。
タンニンは優しくメルローらしい優しさが出ている。
ブライ・コート・ド・ボルドーは、土壌が軽く砂が混ざっている、ド・ラは石灰岩、ジゴーは石灰小石。
メルローは丸いワイン、カベルネは長いワインになる。
アッサンブラージュで、丸みに長さを加える。
■シャトー パヴィ・マッカン 2012
サン・テミリオングラン・クリュの中でもテロワールが特殊で、最も標高の高いところにあり、粘土の割合が高い。
たくさんの酸をキープしつづけることができる。
ブルゴーニュの香りがあり、外観の分からない黒いグラスに入れると、シャンボール・ミュジニーと答えたくなる。
ボルドーの中でも最もPHが低い。
輝きがあり、澄んでいて、粘性が豊か。
ロースト香、プラム、カシス、ジャム、赤系の果実でチャーミング、重々しさがない 余韻が長く素晴らしい。
タンニンが若く収斂性がある。
新樽は4割で、ローストはゆっくり行う、あまり焦がさないけど時間はかける。
樽熟成はワインにストラクチャを与えるが、香りはつけたくない。
焦がすほどロースト香が強くなり、修正がきかなくなってしまう。
■まとめ
ステファン・ドゥルノンクールさんは、完全にワインに取り憑かれた人って感じでしたね。
ワインオタクというか、ぶどうオタク?
ぶどうと会話できるタイプの人間です。
ぶどうを破砕しないで醗酵させる事を思いついたのは、収穫前まではとても大事に育てられ宝石のように扱われるぶどうが、収穫後は除梗、破砕、プレスなどひどい仕打ちをうけるのを見て可哀想に思ったから、という理由でした。
そして、「ヴァン・ド・テロワール」と「ヴァラエタルワイン」の違い。
世界中どこでもその品種を使えば出来るワインは「ヴァラエタルワイン」。
しっかり熟成させて、収量を減らして、その土地の個性をしっかりワインに反映させたものが「ヴァン・ド・テロワール」。
なるほど、と思いました。
最近は生産者の立場が強くて、飲む方が気を使うような傾向にありますが、今回のセミナーもそんな印象でしたね。
そんな中でも、中本ソムリエはいろいろぶっ込んできてステファンさんがちょっと機嫌を損ねるような場面もありましたが、最終的には中本ソムリエのコメントに感心してようでした。
中本ソムリエ、グッジョブです。(お前が言うな!)
どのワインもグラスに少し飲んで全容が分かるようなタイプではないので、機会があればじっくり飲んでみたいですね。
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