2012年3月27日 小飼一至さんが逝去されました。
ご冥福をお祈りします。
日本ソムリエ協会 関東支部の2010年第1回例会、日本ソムリエ協会/国際ソムリエ協会 小飼 一至会長による「生涯ソムリエ・ソムリエ体験談」に出席してきました。
場所は品川のグランドプリンスホテル高輪 B1F「プリンスルーム」。
400人くらい入りそうな大ホールです。
なんだかまだ新しく、豪華な内装でした。
時間になって小飼 一至会長が登場。
初めて本人を見たのですが、堂々とした恰幅のいい方で、とても優しそうな印象です。
まず関東支部長から挨拶があり、それから小飼 一至会長の話が始まりました。
40年間、ソムリエ以外の仕事はしていないそうで、それであの本のタイトル「生涯ソムリエ」がついたのですね。
ざっと小飼 一至会長の経歴をまとめました。
1969年 銀座のマキシム・ド・パリで働き始める。
1973年 フランスのマキシム・ド・パリで修行。
1981年 日本ソムリエコンクール優勝。
1982年 プリンスホテルに転職。
1988年 国際ソムリエコンクール3位。
1993年 国際ソムリエ協会の技術委員就任。
2005年 日本ソムリエ協会会長就任。
2007年 国際ソムリエ協会会長就任。
2009年 黄綬褒章受章。
まだまだ多くの受賞をされていますが、割愛ということで。すみません。
今回のセミナー内容を簡単にまとめてみました。
■ソムリエという職業について
ソムリエとして重要な環境は、良いワイン、良いお客様、良い料理、良い経営者に囲まれていること。
そういう意味で、一流店で働くのが一番近道。
とにかくワインは現場で見て覚える。
ワインの本もたくさん買って覚えた。
一番大事なのは利酒。
目と鼻と口がソムリエには一番重要。
ソムリエは、偉大なワインを記憶にとどめておく必要がある。
普段のみのワインは覚えなくて良いが、一定レベルを超えるワインは体で覚えておく。
最低限、嘘をついてはダメ。
飲んだことの無いワインを飲んだように言ってもすぐバレる。
客商売なので第一印象が大事。
笑顔や雰囲気、清潔感も重要。
お酒が飲めないとダメだけど、たくさん飲める必要はない。
国際ソムリエ協会の会長を受けたときは一つの思いがあった。
いままではヨーロッパ圏の為の組織だったが、これからアジアなど世界中にワインの広めないとならないという気持ちで受けた。
■テイスティングについて
ブラインドテイスティングは、知識より、体で覚えたものが重要。
消去法で選ぶのではなく、ズバリ当てる。
コンクールでは、要因を分析して推理していく人よりは、いきなり核心にせまり、ズバリ当てる人の方がインパクトがある。
テイスティングの要素が合っていれば当てる必要はない、という考え方もあるが、小飼 一至会長は当てないと意味がないと思っている。
バイヤーとしての、一日のテイスティングの限界は200種類程度。
選ぶ基準は3つで、造り手の情熱が入っているか、価格と味のバランス、日本に持って帰って売れるのか?
■ワインについて
ロマネ・コンティはフィロキセラの影響で、1946年~51年のビンテージは無い。
その直前のビンテージがすごいという話を聞き、1943年のロマネ・コンティを飲んだ。
いままでで一番インパクトのあるワインだった。
1937年のロマネ・コンティを飲んだときは、8本中7本がダメだったが、1本は完璧だった。
1970年のロマネ・コンティを60本注文した事があった。
抱合せで、12本のDRCのうち1本のみがロマネ・コンティなので、60ケース注文した。
ところが1970年のロマネ・コンティは最悪で、全然売れず、結局仕入れた原価で、「マズイですよ」と言い訳しながら提供した。
2009年の1月に、1858年のシャトー・ラフィットを2本開ける機会があった。
150年前はまだロスチャイルド家は入っていなかったので、シャトー・ラフィットだった。
トリュフのような香りに、まだ果実味もあり、卓越した偉大なワインだった。
まだまだ世界中には掘り出し物のワインが多い。
ブルガリアもその一つだが、フランスでもラングドック地方はまだまだ良いワインが輸入されずにある。
■ワインテイスティング
当日出されたワインは4種類。
すべてコート・デュ・ローヌ南部、ローヌ川左岸のもの。
1.グラン・マレノン 2006
Grand Marrenon 2006 Cellier de Marrenon
AOC:リュベロン
アルコール度:14.5%
ブドウ品種:シラー70%、グルナッシュ・ノワール30%
上代:1380円
フレンチオークの木樽熟成12ヶ月、新樽比率30%。
色合いはバイオレット。ガーネットのように見えるが、深い透明感がありルビー。
香りは、小さい果実のフルーツ香。黒すぐり、木いちご。
バイオレットのような花と、杉の皮をはいだような香り。
わずかに熟成感が出ていて、なめし革のような動物香や甘草。
複雑性、凝縮感があり、香りのボリュームは大きい。
少し涼しげな印象がある。
味わいは、渋みは少しで、ぶどうの渋みを感じる。
酸はしっかりしていて、いい感じ。
ほのかな甘みが残る。
樽のフレーバーがあり、凝縮感、繊細、力強さ、エレガント。
余韻は、7~8秒続く。
合わせる料理は、リブロースステーキ、ラムのローストにハーブを効かせたもの、ローストビーフ。
中華なら豚の皮をパリパリに焼いたものが焦げの印象とマッチする。
焼き鳥なら塩味で、すっきりしたミネラル感に合わせる。
牛の白カビチーズにも合う。
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2.オルカ・シス 2007
ORCA VI 2007 Cellier de Marrenon
AOC:ヴァントゥ
アルコール度:14.5%
ブドウ品種:グルナッシュ・ノワール90%、シラー10%
上代:1600円
生産者が力を入れているワイン。
オルカは、昔ワインを入れていたアンフォーラという素焼きの壺の事。
樹齢60年の木から収穫されるぶどうを使っているので色や香りに凝縮感がある。
濃く深いルビー。温かみのある色合い。
フチはピンク。
フレッシュな果実香。
黒すぐりのジャム。
カシスやブラック・ベリー。
動物性の香りもあり、赤身肉の断面の血液のような、生肉のような印象。
タンニンが溶けていて渋みが柔らかい。
酸味は穏やか。
力があり、フルボディでリッチ。
タンニンはソフトで、しなやかな印象。
ふんわりとした甘み。
果実のリキュールや、ヴァニラ、甘草、白コショウ、タバコ。
うまく熟成している。
残存性もある。
若い感じもあるので、飲むときには温度が上がらないようにケアする必要がある。
合わせる料理は、鴨の胸肉、肩ロースステーキ、ジビエ、シチュー、北京ダック、すき焼き、焼き鳥のタレ。
まぐろのほほ肉をあぶったもの、うなぎの肝なども良い。
りっぱなワイン。
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3.シャトー・ラトゥール・デキュ 2003
Chateau La Tour d'Aigue 2003
AOC:リュベロン
アルコール度:13%
ブドウ品種:シラー50%、グルナッシュ・ノワール50%
上代:2180円
熟成感を感じる色調。
ややレンガ色のルビー。若い頃はややパープルの色調をしている。
グルナッシュ・ノワールは収穫が早い。
シラーと時期をずらして仕込む。
72時間マセラシオンして果実のうまみを引き出す。
醗酵温度は高めで、32℃まで上げる。
フレンチオークで12ヶ月熟成。
新樽比率は少ない。
黒い果実香。小さな実の果実。
リキュールやジャム、シトラス、きのこ。
動物性もあり、皮と赤身のジビエの印象。
飲み口はソフトで、タンニンは溶けている。
まろやかな酸味が調和している。
果実の印象、カシスや桑の実がある。
グルナッシュ・ノワールはワインに、しなやかさとなめらかさを与える。
シラーをブレンドすることで、一本筋が通る。
グルナッシュ・ノワールは果実味も与える。
余韻は8秒程度で、最後は軽く消える。
十分熟成感がある。
牛のフィレ肉、ズッキーニやプロバンスのナス。
うなぎの蒲焼、たれの焼き鳥。
後味の良いワイン。
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4.シャトーヌフ・デュ・パプ 2006 ドメーヌ・ル・ポンテュ
Chateauneuf-du-Pape 2006 Domeine Le Pointu
AOC:シャトーヌフ・デュ・パプ
アルコール度:15%
ブドウ品種:グルナッシュ・ノワール80%、サンソー20%
上代:4500円
2種類のブドウだけで作られるシャトーヌフ・デュ・パプは珍しい。
色は透明感のあるクリアなルビー。
透き通っているので、飲み頃は早い。
香りは、アロマというよりはブーケが形成されている。
ロースト香、コーヒー豆、乾いた果実、いちじくのコンフィ、乾いたいちじく。
デリケートな香り。
さくらんぼのリキュール、キリッシュのような印象。
味わいは、タンニンがきれいに溶けていて、控えめで酸と調和している。
酸味はフレッシュ。タンニンもキレイ。リッチな口当たりで残存性も高い。
生産者は2030年くらいまで飲めると言っている。
9秒ほどの余韻がただよう。
合わせる料理は、赤身の肉なら何にでも。
煮込みや、ヒツジの肩ロース、ピジョン、鶏、軽いソースでも重いソースでも。
青カビのチーズにも合う。
スーパーで売っているうなぎの蒲焼に山椒をかけて食べても合うと思う。
シャトーヌフ・デュ・パプの白はもっと高いが抜群に美味しい。
シャンパーニュのような、キリッシュを少し垂らしたような、リッチな味わいがある。
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【感想】
世界最高レベルのソムリエの話は、さすがに参考になる事ばかりでした。
特に考えさせられたのは、ブラインドテイスティングは当てないとダメ、という点。
呼称資格試験もそうですが、テイスティングのテストは、香りや味の特徴を捉える事が重要で、品種や生産地を当てる事が目的ではありません。
また、ブラインドテイスティングで重要なのは「知識」であって、「感覚」ではない、というのも現在の主流の考え方。
以前受けた、石田 博ソムリエのセミナーでも、そのような事を言われていました。
ところが小飼 一至会長は、ソムリエはワインの銘柄をズバリ当てないと意味がない、と今回のセミナーで明言されていました。
ソムリエで一番重要なのは、目と鼻と口、一度飲んだワインは体で覚える、という考え方。
要素を洗い出していって、ワインの銘柄を推理する、というのは誰でも勉強すれば何とかなりますが、飲んだワインを体で覚えておいて、ズバリ当てるというのは、特殊な才能がないと無理ですね。
絶対音感のような、「絶対味覚」が必要なのでしょうか。
なんとなく、小飼 一至会長にはそういったものを持っているオーラを感じますね。
やはり一流の人の話は勉強になります。
どんどん、こういった機会に参加したいですね。
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