2011/12/04

朝日新聞 グローブ 通巻76号 ワイン、変わる世界地図

今日の朝日新聞GLOBEの巻頭特集は「ワイン」。

面白いポイントがあったので、サマリーでまとめてみました。

■中国のワイン事情

中国の成功者はステータスとして高級フランスワインを愉しむが、若者も気軽に中国産のワインを楽しんでいる。

カラオケボックスにも100元くらいのものが置かれている。

昨年の輸入量は28万6000キロリットルで、5年前の5.4倍に増えた。

7月に上海ワイン取引所がオープン。
ロンドンに次いで世界で2ヶ所目。

5年以内に中国は世界最大のワイン市場になる、という見方もある。

中国の風習で乾杯でグラスを空ける習慣が消費量を伸ばす一つの要因でもある。

政府幹部への贈り物や賄賂で使われるワインは、高ければ高いほど宴会の話の種になる。

香港はニューヨークを抜いて、世界最大のワインオークション市場になった。

■新世界ワイン

クリュッグ、ドン・ペリニヨンのモエヘネシーは、スティルワインをすべて新世界で造っている。

代表的なものは、オーストラリア・マーガレットリヴァーの「ケープメンテル」。
最先端の技術を駆使して造っている。
関係者は「レオヴィル・ラス・カーズ」にも負けないと自負。

1995年に世界のワイン生産量の73.1%を占めていたヨーロッパは2009年には66.5%になった。
アジアは3.5%→5.5%、オセアニアは2.2%→5%に増えている。
インドやタイでも良質のワインが造られるようになった。
新・新世界とも言える。

消費量トップのフランスはワイン離れで、2位のアメリカに抜かれる可能性がある。

ワインは食事と会話に時間をかける西欧型のライフスタイルを象徴していて、そのイメージを広げる事が販売戦略だった。

■ブルゴーニュ

ブルゴーニュでは、区画ごとに土壌や気候などの「テロワール」が異なり、ワインの味と香りに違いにつながっている。

小さな家族経営のドメーヌも多く、受け継がれた手法を守り、伝統と多様性がブルゴーニュの誇りでもある。

フィリップ・ルクレールの販売担当のコメント「機械化された新世界のワイン産業とは違い、私たちは自分がいいと思うワインを、最初から最後まで自らの手でつくる。世界が欲しがる味に合わせようとは思わない。」

AOCの規制下ではブドウの出来不出来に柔軟に対応出来ないが、土地や畑の個性を守るためには重要。

ブランド力と品質を決めるのは消費者の評判。特にロバート・パーカーの格付けの存在感は大きい。

ロバート・パーカーの代理人、アーネスト・シンガーは「パーカーによって、世界のワインの質が向上した」と語るが、フランスではパーカーの評判は芳しくない。
フランスではワインを、多様で複雑な芸術作品のような存在と考えている。

フレデリック・ドルーアン「新世界ワインは、世界各地で新たな消費者を開拓してきた、初心者はわかりやすい新世界ワインから飲み始め、次にフランスワインに手を出す。やがて、複雑なブルゴーニュにたどり着く。」

■タイのワイン事情

タイのワイン醸造最大手「サイアムワイナリーー」、南部フアヒンのブドウ園は30ヘクタールの斜面に、白ワイン用のコロンバード、赤ワイン用のシラーなどのブドウを栽培。

高温で雨が多い環境でも、ワインをつくりたいという情熱がすべてを可能にした。

タイのワインづくりは約30年前にプミポン国王の主導で始まり、いまは9社の大手ワイナリーがある。

メルローやシャルドネは夏の日照時間が足りずにうまくいかず、コロンバードとシラーに落ち着いた。

タイ産ワイン「モンスーンバレー」は約3分の2を国内出荷、残りは欧州と日本に輸出。
コロンバードの白ワインは2008年にパーカーポイント87点をとった。

■モルドヴァ

モルドヴァは人口400万人たらずの小国だが、ワインの輸出量は世界12位。

ワイナリー「クリコヴァ」の地下には総延長60kmのワイン貯蔵施設があり、最も古いものが1902年の中東のワイン。
ある富豪が、100万ユーロ(1億円)で買いたいと言ったが断った。

「クリコヴァ」は旧ソ連時代には共産党の指導者御用達だった。
人類初の宇宙飛行士ガガーリンは、このワイナリーに勲章を与えるべきだ、と主張した。
2002年、プーチン大統領は50歳の誕生日をこの貯蔵庫で開いた。
いまもプーチンが保存を委託したワインがある。

モルドヴァワインの輸出先は30ヶ国で日本も入っている。

■デンマーク、イギリス

北限が北に移動していて、いままでブドウの栽培が不可能と思われていた北欧でもワインが生産されるようになった。

デンマーク産の「ロンド」というブドウ品種で作った赤ワイン「ノールン」は、軽やかでしっかりした酸味で、ミネラルの風味が特徴。
航空便で仕入れるため、1本6825円と高め。

デンマークでワインづくりの試みが始まったのは1990年代といわれる。
いまではいくつかのワイナリーが活動していて、輸出をめざすワインもある。

以前はワインづくりの北限は、北緯50度までとされていて、シャンパーニュが北限だった。
しかし、昨今は気候があたたかくなり、ブドウ栽培の北限がどんどん北上している。
北緯54度を超えるデンマークはもとより、さらに北のスウェーデンでもワインがつくられるようになった。

イギリスもワイン不毛の地だったが、1970年代からブドウ栽培が試みられ、いまやスパークリングワインの一大産地となっている。
石灰質の土壌のあるイングランド南部にワイナリーが多い。
ロンドン五輪で注目されるかもしれない。


■ジャンルイ・ビュエル フランス国立原産地・品質研究所(INAO)所長

AOCの下では、新技術の拙速な導入は禁止されている。
自然と生産哲学から外れた手法でつくったワインは、ある種の偽物だ。

フランスワインはテロワールに根ざし、絵の具を乗せたパレットのような多様性があり、平凡なものでは満足しない消費者のニーズに合っている。

年によってブドウの出来に差があり、その差をつくり方や技術で無くすのが新世界ワインで、ワインの出来に差が出るのがフランスワイン。

ロバート・パーカーの手法は、人によって受けとめ方が異なるワインを一つの価値観で序列する事で、危険性がともなっている。

■ウィリアム・ハーラン

「ハーラン・エステート」はナパ・バレーで最高の芸術作品ともいえるワインを育ててきた。
単においしいというだけでなく、飲んだ人が「がんばって働こう」を思えるようなワインを目指している。

最高の芸術作品をつくるには、自然条件だけではなく、科学技術も必要。
「生まれか、育ちか」ではなく、土地の力がワインを生む時期、技術によって成長を遂げる時期、というサイクルを繰り返す。

ワインは非常に複雑なので、人によって感じ方や評価が分かれる。
点数だけではなくて、言葉による評価と組み合わせて行うのが、現実的はないだろうか?

■ヒュー・ジョンソン

伝統産地と新世界の違いは、つくり手というよりは消費者の問題だろう。

ブルゴーニュの特別なワインを欲しがる消費者は、感覚を研ぎ澄まして、土地のメッセージを受け取ろうとする。

新世界でもその土地ならではの良いワインが増えている。
ワインはロマンにあふれる夢であり、友愛と健康、安定した暮らしを象徴する文化。

新世界ワインは多すぎて、登場するワイン名に馴染めない人は有名シャトーを選び、新世界に押されていたフランスワインは自信を取り戻している。

フランスやイタリアはしたたかで、新世界の技術を巧みに取り入れ、品質の向上に努めている。

ロバート・パーカーは、消費者の立場から世界のワインを評価しようとした。
だが彼の採点結果は、消費者ではなく、売り文句に使われている。
ワインの評価を単純化したことが問題点だろう。

■山梨、神奈川

グレイスワインの中央葡萄酒は、昨年、甲州ワイン2000本をイギリスに輸出した。
昨年、甲州種が国際機関に登録され、ラベルで「甲州」とうたうワインを売れるようになったのが追い風になった。

日本でもチリやオーストラリアの安いワインが広がり、1999年は市場の半分程度の輸入物が、2009年には7割に迫っている。
国内での市場では生き残れないので、世界で戦う必要がある。

ロンドンで、試飲会を開き、ワインジャーナリストのジャンシス・ロビンソンが、英国フィナンシャル・タイムズで「繊細さや純粋さが印象的」と評した。

ロンドンには世界ワイン情報の7割が集まる。その市場に入らないと日本のワインは世界で生きていけない。

ロンドンのミシュラン1つ星レストラン「Pollen Street Social」で日本ワインとして唯一、「グレイス茅ヶ岳」がオンリストされているが、価格は44ポンド(5300円)とライバルのスペインワインなどの5割高。
円高も影響している。
扱いも、レバノンワインなどと同様で、珍品という扱い。

いいワインが出てきたが小さいワイナリーがバラバラでやっていて、甲州の共通の味わいが欲しい。

甲州と対照的な、輸入ワインや濃縮ぶどう果汁を使った国産ワインは神奈川の藤沢工場でつくられていて、ここが日本最大のワイン生産拠点。

2009年の果実酒の課税出荷数量は神奈川県が山梨県を抜いてトップ。
その9割がメルシャン藤沢工場でつくられる。

海外から大量に仕入れたワインや濃縮ブドウ果汁を原材料にして安くつくることができる。
チリ、アルゼンチン、マケドニアなどから40~60種類を使ってワインをつくる。

2008年からは輸入したワインをそのまま瓶詰めするリボトリングも始めた。

専門家の間では批判的な声もあるが、安くておいしいワインを提供し、すそ野を広げていきたいという気持ちがある。

■外交とワイン

ワインは国際政治の舞台で重要な役割を果たす。

2008年5月の胡錦濤国家主席来日の際に、当時の福田首相は、個人所有のカリフォルニアワイン「ハーラン・エステート」を持ち込んだ。
当時、中国とフランスの関係がぎくしゃくしていたことへの配慮であった。

夕食会はなごやかな雰囲気で終わり、「ハーラン・エステート」が日中友好に一役買ったと、中国でカリフォルニアワインが高騰した。

政治とワインは切り離せない。
ワインのあるところに人が集まり、密談や微妙な話もできるサロンになる。ワインがわかる人にはそれなりのものを出し、あなたは大切な人なのです、ということをさりげなく伝える、そうすることで交渉がうまくいくこともある。

■ワインリゾート

山梨と長野の県境にあるリゾートホテル「リゾナーレ」で、来年春から「体の中と外から、全身でワインを感じる」という本格的なワインツアーを始める。

食事から宿泊、リラクゼーションまですべてがワインずくめで、注目を集めている。

提携ワイナリーの「ドメーヌ・ミエ・イケノ」で、フランス国家資格のワイン醸造士、池野美映の案内で醸造施設を見学できる。
そこを旅しているときにしか飲めないワインを味わうのは、見知らぬ土地のワインを飲むよりずっと贅沢。

石川県 山代温泉の「あらや滔々庵」は地元食材とルクセンブルクの白ワインのマリアージュで、冬限定の特別メニューを展開。
小松空港とルクセンブルクの定期貨物便が就航しているのが縁。
海外からの湯治客増えていて、新たな付加価値でのワインに期待が膨らむ。

■田崎真也氏に聞く「ワインの楽しみ」

※すみません、基礎知識部分は省略します。

Q:ワインに合わない料理とは?
塩辛やキャビアなどの魚卵、アンチョビはそのままでは合わせづらい。
酸味や香り、苦味や甘みが極端に強い食品は難しい。
若いワインは、熟成したもの、磯の香が強いものがダメ。
辛いものは意外に良く合う。

Q:ワインは体にいい?
食べ物は取り過ぎると体に悪い成分も多かれ少なかれ入っているので、ワインも料理も食卓を豊かにするために楽しんだ方がいい。

Q:ボージョレ・ヌーボーについては?
日本みたいに騒いでいる国はない。アメリカを抜いて世界一の輸入量。
現地で質のいいものを買っているので、フランスのスーパーで売っているものよりは品質が上。

■ワインバブル

世界の消費量は過去10年で1割増えた。

アメリカ、中国、ロシアが伸びている。特に中国はワインバブル。

日本もかつてワインバブルがあった。
1980年代はバブル期で、高級シャンパンがバーやクラブでどんどん開けられ、1990年代はポリフェノールの健康ブームがあった。
その後、日本の消費量は激減し、1人あたりの年間消費量も2リットルと10年前より少ない。

世界のワインのブームが定着するのか、一時的なブームで終わるか、今はわからない。

0 件のコメント:

閲覧数の多い記事